企業様からマンガを使った企画をしたいというご相談をよくお受けします。ただ、漫画制作の現場というものが、世間一般に周知されていないため、お金の面や、制作進行などに支障をきたすというケースもよく耳にします。
漫画制作における、相場や制作工程について、漫画家の立場からまとめてみましたので、発注をご検討されている企業様などに参考にしていただければと思います。
企業漫画の相場について
(企業から依頼される広告漫画などをここでは「企業漫画」とします)
一般的な制作会社の場合のモノクロ1ページの制作費が
40,000円/枚(税別)前後が多いようです。(カラーの場合はプラス1万円/枚~)
(シナリオ、ネーム、キャラクターデザイン、漫画制作費用として。取材費用は別途)
多くの企業漫画制作会社、企業漫画受注漫画家が、この前後の金額の間でお請けしているところが多いので、これを企業漫画の大体の相場と見てよいのではないでしょうか。(あくまで個人的見解です)
(人気作家はこの価格帯よりも高いようです)
また制作費用も一概に金額が安い方がいいとは言えません。修正対応可能回数や、二次使用(※)の可否など、含まれるサービスの契約内容の違い、また漫画制作側が広告宣伝費にいくらかけているか等の会社ごとの違いなどが見積もり金額に反映されます。
(※二次使用とは当初に取り決めした使用範囲を超えた著作物の使用の事です《イラストの転載等》)
戸城イチロは、上記の相場を基準とし、お問い合わせいただいた内容を確認した上で、お見積りを提示いたします。
企業漫画制作の流れ
1.問い合わせ…クライアント様から漫画家や制作会社などにご連絡
2.見積もり…お金の面の合意が得られないと、以下の工程が無駄になりますので、大まかな見積もりは早い段階で出します。
また企業様の方で、漫画化してみようと企画を立ててもすぐには、明確な予算が決まらない時があります。
しかし予算があいまいなままだと、企画の内容やページ数などが決まらず、漫画制作の企画自体が進みません。
そんな場合には、
⑴. まずは予算を決めて、その範囲内でベストなものを作るやり方
⑵.まずは漫画の完成品の仕様や活用法など見積に必要な条件を全て伝え、見積金額を出してから進めて行くやり方
上記2つのアプローチから、進めて行く事をお勧めします。
3.打ち合わせ(ヒアリング及び構成)…クライアント様が漫画を使って何を表現したいのかを徹底的にヒアリングいたします。さらにヒアリングさせていただいた内容を元に、構成を考えます。
例えばパンフレット制作の場合、漫画だけの紙面にするか、データやグラフ、解説ページなどと併用するのか等の大まかな構成を決めます。
次に漫画のストーリーをどんな形にするかを決めます。
「報酬(原稿料)」や「納期」「修正対応回数」「作業の進め方」「利用範囲」等についても話し合います。
契約書の作成…打ち合わせの際に、話し合った内容を書面化します。詳しくはこちら。
(契約書の作成は必須ではありませんが、後々のトラブル防止のためにも作っておくことをお勧めします)
4.構成内容のご確認…打ち合わせで話し合った内容を元に構成案が提示されますので、クライアント様にご確認いただきます。
5.制作開始…漫画の制作に入っていきます
漫画制作工程
ストーリー制作工程
1, 企画・プロット作り…企画を具体的にしていきます。プロットというのは文章でのストーリーのあらすじです。クライアント様にご確認をいただきます。
2, ネームづくり(脚本作り)…あらすじを漫画の形にします。構図・コマ割りやセリフ等を作る段階。基本的な漫画の形としては、ネーム段階で出来上がっているとお考えください。クライアント様にご確認いただき、修正があれば修正を行います。基本的に大きく修正可能なのはこの段階までと認識ください。
作画工程
3.下書き…下書きを描きます。作画の修正ができるのは下書き工程までです。本来ネーム段階で修正するような内容の修正に関しては、別途修正費用がかかります。ペン入れ以降は基本的に修正できません。
4. ペン入れ…下書き後にペンによる清書に入ります。ペン入れに入ってからの作画の修正は、別途料金がかかります。
5.仕上げ …清書した絵に対し、ベタやスクリーントーンを貼っていきます。カラーの場合は彩色作業になります。文字に関してはこの段階の修正も可能です。
6.完成…最終確認でOKがいただければ、印刷やWeb用のご希望のファイル形式での納品となります。
キャンセルについて
契約が締結され、漫画の制作に入ってからのキャンセルには各段階で所定のキャンセル料がかかるとお考えください。
特に2→4の部分にGoをかけて、作業が4の完了まで到達した場合、少なくとも原稿制作料が100%発生する。」と認識してください。
意味合いとしては、「中華料理屋でメニューを見て蟹チャーハンを頼んでおいて、出てきた蟹チャーハンに納得できないので、食事代を払わない。」ということは、普通は許されない、ということです。なので、ネームや下書き(中華料理のメニュー)の時点で、明確にイメージできるように、仕事を進める必要があります。
制作に必要な日数
大まかな目安ですが、一般的なストーリーマンガ、20ページ(1色)の実制作期間は約一か月となります。
打ち合わせ…一日
企画・プロット…一週間
ネーム制作…一週間
作画…二週間
実際の制作期間は、この日数に「クライアント様の検討期間」+「修正にかかる日数」が加わります。
漫画制作を希望するクライアント様の中には、漫画家に直接発注を出す場合と、漫画制作会社を通す場合の違いが分からないかもしれませんので、こちらについても、まとめてみました。
漫画家に直接発注をする場合と、企業漫画制作会社を通す場合との
メリットとデメリット
漫画家に直接発注を出す場合
○メリット…制作会社の取り分がない分、お見積もりを抑えられる可能性があります。スキルのある漫画家であれば、制作会社ができる事は、漫画家のみで充分対応可能ですし、シナリオ制作から、漫画家が行いますので、制作会社が作るよりも面白い漫画が出来る可能性が高いです。
×デメリット…漫画家個人のスキルの比重が大きくなります。企業漫画の経験と実績のある漫画家でないと、スムーズにお仕事が進まないリスクがあります。また漫画の制作面のスキルだけでなく、トラブル防止の為の、契約書の作成の知識なども漫画家側にある方が望ましいです。
漫画制作会社に発注を出す場合
○メリット…豊富な登録漫画家の中からお好みの絵柄を選ぶことが出来ます。企画や構成部分を制作会社が担うため、漫画家の個々のスキルの比重が下がり、安定した成果物が期待できます。
またオプションで、完成された漫画の運用サービスを行っている制作会社もあるようです。
×デメリット…漫画家に直接発注を出す場合に比べ、関わってくる人数が多いため、見積もり額が高くなりがちです。またシナリオ制作を、漫画制作会社が行うため、面白味のない無難なストーリーが多くなります。
漫画家:戸城イチロができる事
・クライアント様のご要望を受けての、全体的な構成のご提案
・シナリオ制作
・漫画制作
・漫画以外の解説ページ等の制作、印刷用DTP処理(デザイナーとの共同作業になります)
・クライアント様が希望するファイル形式でのデータ入稿
※専門知識が必要な場合
商品の広告など、商品を魅力的に伝えることを目的としたストーリー漫画であれば、漫画家のみで対応可能ですが、専門知識が必要な内容の漫画の場合、専門家の協力が必要な場合があります。
こういった場合、専門家のご用意はクライアント様の方でしていただき、クライアント様、専門家、漫画家の3者でお仕事を進めて行くことになります。
ここでは、戸城イチロが実際に制作させていただいた企業漫画を例に挙げながら、制作工程を説明していきます。
ここからは「中古車オークション代行業」を営む方からのご発注で、漫画を制作した際の流れを例に進めて行きます。
クライアント様から「中古車オークション代行業」ってなに?という層の方に向け、それを解説する内容の漫画を制作したいとのオファーをいただきました。
僕自身、「中古車オークション代行業」については無知だったので、クライアント様がそれに精通していたこともあり、何度も打ち合わせを重ね、僕が「中古車オークション代行業」について感じた疑問質問を、打ち合わせの中でクライアント様に解説していただき、それをベースに漫画の内容を決めていきました。例えば、こんな内容です。
・中古車を売る際に、中古車買取業者に持ちこむか、オークション代行業者に持ち込むかで、オーナーに入ってくる金額が大きく異なる場合がある。
それは、なぜか?中古車オークション代行業とはどういう仕組みなのか?
内容を決めたら、それを元にプロットを制作します。今回のあらすじは、
・中古車買取店で、自分の車を売った主人公の友人が、その車が買取価格の倍以上で売られていることを知り、安い買取価格に愕然とする。落ち込む友人を励ます主人公。そこに、中古車売買に詳しい先輩が現れ、彼らにオークション代行業というモノの存在を教える…
、以上のようなあらすじを作りました。
プロットが決まったら、次はそれを漫画の形にしていきます。キャラクター達を動かし、会話をさせて、シーンを作り、ストーリーを作っていきます。
ネームと呼ばれる工程です。
左の画像を完成形まで見ていただくとわかると思うのですが、漫画としての形は、ネームの段階で決まっています。下書き以降の工程は作画の工程であり、ストーリー制作の工程は、ネームの工程までなので、ストーリーの修正は、ネームの工程を過ぎたら、出来ないものとお考えください。
その為、ネームの工程で、わからない所や気になっている所を念入りにご確認ください。
作画工程に入ってからのストーリーの修正は、追加費用が発生します。
クライアント様にネームのチェックをしていただき、ネームの修正後、作画工程の第一段階である下書き工程に入りました。
ご覧の通り、ネームからよりしっかりと描きこみがされているのがお分かりになると思います。
作画の修正が可能なのもこの工程までです。
※デジタル作画への移行に伴い、この工程を省略する場合もございます。
かわりにネーム工程で3Dポーズモデルの配置を行い、直接ペン入れを行います。
※ネームと下書きをひとまとめにした場合は、こちらのように3Dポーズモデルが配置されます。
ラフ絵、もしくは3Dポーズモデルに対して、ペンを使って清書をしていきます。
この工程になるとストーリー、作画共に、基本的には修正できません。
※上記の3Dポーズモデルにペン入れを行った場合には、このような形でペン入れが行われます。
仕上げの工程です。今回はカラー原稿でしたので、彩色作業がこれに当たりました。
なお、モノクロの場合は、ベタ入れや、スクリーントーンを貼ることが、仕上げに当たります。
制作したマンガをクライアント様にお渡しします。今回はウェブサイトでのご使用という事でしたので、JPEG形式のデータをお渡ししました。
その後、制作費用をお支払いいただき、案件が終了となります。
菊池健 (トキワ荘プロジェクトディレクター、マンガHONZ)
「原作のアイディアがあるので、マンガにして欲しいというお話」(漫画原作者になる方法)
http://tkw-tk.hatenablog.jp/entry/2015/06/05/122611
「俺の事マンガに描いて良いよ」と言われた漫画家の反応と、雑誌以外の漫画仕事のお話。
http://tkw-tk.hatenablog.jp/entry/2015/06/15/114121